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統合マネジメントシステムの勘所
 記事提供:鈴木信吾氏


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その0:統合マネジメントシステムの二つの方向

 マネジメントシステムの統合事例を耳にすることが増えてきた。多くの事例は、それぞれに組織の特徴を活かした個性的なものだ。マネジメントシステムを「成果につなげるためのツール」として使いこなす姿が現れている。「審査で指摘を受けないこと」から「企業活動のクオリティ向上」へ焦点を当てたマネジメントシステムに転換するキッカケとすることもあるようだ。マネジメントシステムに関わる同僚として喜ばしいかぎりだ。
 統合化の事例は二つの方向に大別できる。一つはカンパニー統合であり、もう一つは機能統合だ。

 カンパニー統合は、サイト(工場や事業所)毎に構築していたマネジメントシステムを全社のシステムとして一つにするものだ。品質マネジメントシステムを例にすれば、事業所毎に「最高経営層」や「品質管理責任者」を設定し、個別の品質マニュアルのもとで運用していたものを、社長を最高経営層に、品質担当取締役や本社の品質保証部長を品質管理責任者に位置づけて各事業所を指揮するという、考えてみれば本来の姿でシステム(会社)を運営することになる。品質マニュアルは全社版として統一し、各事業所の特徴を活かした運用をする。従来の事業所毎のシステムとの大きな違いには、本社の役割と責任が明確になり、会社としての有機的な運用がしやすくなることがある。事業所間につながりがある場合は特に効果がある。事業所間の課題や問題が顕在化し、全社レベルでの調整やアクションが取りやすくなる。品質をスルーで見る目がより確かになるわけだ。
カンパニー統合は、そもそも共通の文化を持って運営されているサイトを取りまとめるという性質から、マネジメントシステムをデザインする上での技術的な課題は少ない。問題になりがちなのは、管理責任者などの人選にまつわる押し付け合いのようだ。“誰が猫に鈴をつけるのか”と言う生々しい問題に直面することがあるかもしれないが、ここは勇気をもって臨む外はない。真っ当な経営者やマネージャーであれば理解に難はないはずだ。

 また、システムを統合するついでに第三者審査も統合して、審査工数と審査費用を合理化することが多い。同一の審査機関で行っていた審査を統合化する場合は、審査工数(審査会社の売上高)をめぐっての審査機関VS受審企業・組織の攻防戦が発生することがある。反対に、異なる審査機関での場合は、審査費用の低減を含めた審査機関VS審査機関の顧客獲得合戦が勃発することがあるので面白い。

 機能統合は、例えば品質、環境、労働安全衛生と言ったマネジメントの分野を統合するものだ。各分野の独立性が高くなると、意に反して分野の隙間に問題や矛盾が生じることがある。審査を意識して規格(ISO9001やISO14001、OHSAS18001など)寄りにデザインし過ぎた弊害を解消するために、機能統合をキッカケに無駄を取ったシンプルなシステムにリニューアルし、調和の取れた活動にすることを目的とするケースもあるようだ。機能統合型のマネジメントシステムは、企業の目標達成能力を総合的に向上するためのツールと位置づけることができる。


 機能統合の場合は、適用規格が複数に渡ることもあり、また、例えば各機能を主管する部署間(例えば品質保証部と安全環境部)の活動・連携の度合いによって、マネジメントシステムをデザイン/運用する上での課題は少なくない。これらの課題に対して「あらゆる企業・組織に適用できる具体的な解決策」を提示することは困難であるが、機能統合型マネジメントシステムをデザインし運用するための「勘所」を紹介してゆくことにする。何かのヒントとしてお役に立てれば、また、ご意見などを含めバーチャルサロンなどで会話できれば幸いである。


その1:統合マネジメントシステムの範囲の決め方(何を統合するのか)

 企業・組織の目標達成能力を高め維持するために、仕事の仕組みを追求した結果が統合マネジメントシステムになる。力んで「何か特別なモノを作らなくては!」と暴走してはいけない。製品やサービスの品質だけでなく環境や安全衛生、財務、人材などへの配慮無しには企業・組織の活動は成立し得ない。仕事の本質と各機能の相互関係を見定め、企業・組織の特徴や文化に応じて、仕事をきちんと行うための取り決めを表現すれば自ずと自社に適した、有機的で筋肉質のマネジメントシステムなる。


 実際の仕事の場では、一つの行為の中に様々なマネジメントの分野が関わっている。品物を運搬する仕事を例にすれば、品物のハンドリング方法は品質だけでなく安全衛生への影響も大きく、運搬経路の設定方法はコストだけでなく環境にも関係している。扱う品物が土砂の場合とニトログリセリンの場合では重点となるマネジメント分野やルールの厳しさは大きく異なったものになる。また、生鮮食料品の場合には運搬経路が品質に影響することになるかもしれない。
統合する範囲を決定する上で大切なことは、流行りや御仕着せで決めるのではなく、企業のクオリティを高めるために何が重要かという観点で主体的に定めることだ。また、例えば狭義の品質と環境の活動がバラバラに運営され、成果もちぐはぐで経営資源をロスしていると感じるならば、速やかにその分野を統合したマネジメントとしなければ顧客満足や社会貢献、さらには従業員の幸福を増すことはできない。便宜上分けた機能を有機的に結び付け、優先順位の意思決定(トレードオフ)を含めてタイムリーに、かつ、システマティックに行えるようにするのが統合マネジメントシステムの醍醐味の一つだ.


 企業・組織の使命やビジョンと活動の特徴に照らして重点とする分野を決定し、段階的に統合の範囲を広げてシステムを成長させて行くのが実際的な方法となる。格好が良いだけのシステムではなく、使えるシステムにしなければ意味が無い。品質、環境、労働安全衛生のように規格化されているか否かに関わらず、主体的かつ戦略的に対象とする分野を決定してほしい。マネジメントシステムの分野は、活動を評価する視点の数だけいくつでも作り出すことができるものだ。いたずらに細分化するのは得策ではないが、組織によっては特定の分野をクローズアップしてシステム構築する方が有益な場合もあるだろう。倫理マネジメントが最重要となる組織もあるかもしれない。今後も業界別規格を含め、更に多くのスタンダードが増殖する可能性もある。我々規格ユーザーは、自社にとって重要となるポイントを明確にし、主体的に分野を選択し、メリハリのあるシンプルなシステムで実効を上げつつ、継続的に改善して行くことが大切だ。


その2:統合マネジメントシステムのデザイン

 個別のマネジメントシステムと同様に統合マネジメントシステムにおいても、実効のある活動と成果を導くために、分かりやすく使いやすいシンプルなシステムにすることがコツである。仕事をする主体の社員が、自分の仕事の目的は何か、現在達成すべき目標は何で、どのような指標で達成度合いが把握できるのか、ポイントとなる管理項目は何かが分かるように可視化することが大切だ。そして自由裁量の範囲を明確にし、社員が伸び伸びと才能を発揮できるようにすることだ。そのために、何時、誰が、何をするのかを表し、オープンでフェアな組織とするのが勘所だ。意思決定のスピードがより重要となる時代である。密室での根回しシステムは弊害にしかならない・amp;lt;/font>

 こうした観点から、仕事の仕組みの全体像を表す文書は、統合した一つのマニュアルに仕立てることをお勧めする。例えば、品質、環境、安全衛生のマネジメント分野を独立してプロモートし過ぎると、それぞれの理想を優先し「あちらを立てればこちらが立たず」の矛盾だらけでユーザーを無視したルールを定め知らぬ顔を決め込むといった情けないお役所仕事と化すことがある。機能や分野の隙間を無くし、調和した活動となるようデザインすることが大切だ。
こうした情けない事態を予防するためには、先ずマネジメントシステムの事務局を統合するのが有効だ。少なくとも全体を調整する機能をできるだけ中立な立場の部署に置き(または部署を新設し)、大枠の段階から部門や分野間の調整機能をシステムに仕組んでおくことだ。これを怠ると、全体最適よりも部分(部門)最適を優先する名ばかりのシステムに終わる恐れがある。
シンプルで有効なシステムをデザインする上で、格好の教科書となるのがISOのマネジメントシステム規格だ。ISO9001(品質)やISO14001(環境)等には、それぞれの分野の視点でマネジメントシステムが備えるべき要件が簡潔に書かれている。人類の英知の結晶であり、世界に通じる共通言語でもある。組織内外への透明性を高める有効なツールなのだ。世界市場に受け入れられるためにも世界の共通言語で説明できるシステムにしたい。とは言え、国際規格という道具に使われるのではなく、道具を使いこなして組織のクオリティを高めるスタンスを大切にしてほしい。自社のマネジメントシステムを規格から発想するのではなく、自組織の本質から発想することが大切だ。規格から安易に発想すると、組織本来の使命よりも規格の要求を過剰に満たすことに目を奪われるという不幸な事態を引き起こすことがある。システムを運用する主体は組織自身であることを忘れず、ビジョンを実現するためのシステムを整備し、自社のシステムの出来映えを測定する定規として規格を活用すると良い。


 経営戦略とそれを達成するためのシステムは表裏一体の関係にある。変化が激しく先行き不透明な時代であるだけに、ビジョンと仮説を持つことが重要だ。失敗を恐れて現状に留まることなく、勇敢に進んで行きたいものだ。


その3:統合マネジメントシステムとISO規格

 システムを構想し、構築したシステムが規格の要求を満たしているかどうかを判断するためには、規格を正確に理解することが大切だ。対象の規格が複数ある統合マネジメントシステムの場合もこの基本は変わらない。私の経験から考えるに、規格が分かり難いと感じるのは「具体的に何をすれば良いのか?」という答えを求めて規格を読むからだ。規格には「こういう状態にするべし」とは書いてあるが「どうすれば良いか」は書かれていない。書かれていないものをムリヤリ読み取ろうとすることにムリがあるのだ。規格を理解するコツは、先入観を持たずに肩の力を抜いて素直に読むことだ。色々に解釈できる箇所に遭遇した場合は「唯一絶対の解釈が存在する」などという幻想を持たず、自組織の受けとめ方を主体的に判断することだ。
 

 とは言え、一度読んだだけで分かるシロモノでもない。当初はそれなりに読み込むことが必要だ。そして、折に触れて読み返して理解を深めて行くと良い。特に状況が変化した場合に読み返してみると、新たな発見や改善のヒントを得ることがある。「規格が要求している」ことと「要求していない」ことを見極めることで、規格を満たす方法には大きな自由度があることを理解でき、柔軟でシンプルなシステムを導く助けになる。
 

 繰り返しになるが、「書かれていないことを読もう」としてはいけない。「書かれていない」ことは文字通り「これについては規定されていないのだな、組織の裁量で決めれば良いことなのだな」と理解することだ。そしてISO国際規格に適合すること以上に、ビジョン(望ましいと考える状態)や目的を達成することに適したシステムを追求することが肝要だ。


 ISOのマネジメントシステム規格が「世界最高の水準を示したもの」だとか「審査登録に合格すれば成功するはず」などという“妄想”を持ってはいけない。規格は、マネジメントシステムの要点を簡潔にまとめた人類の英知の結晶とも言えるが、反面、あくまでも「とある基準」であり「共通のツール」だ。業種や地域を選ばずに適用するために、また各国のやり方や主張を調整して成立する妥協の産物という性格も併せもっている。道具は使い様でその価値が決まる。道具を使う主体は我々自身であることを忘れてはならない。丹精込めた自分たちのマネジメントシステムを「審査員が認めてくれるだろうか?」などと躊躇することなく「審査員に我々のやり方を認めさせるのだ!」という気概でことに当たりたい。

その4:統合マネジメントシステムと審査

市場や顧客に自社の活動の健全さを認知して頂く有効な手段として、ISO9001やISO14001等の審査登録制度がある。また、業種によっては認証取得が取引条件の一つとされ、登録を維持すること自体が良くも悪くも企業存続の必要条件となっている。
 
 組織の目標達成能力を高め維持するために作り上げた統合マネジメントシステムは、審査での説明しやすさを優先した個別のマネジメントシステム(例えば品質と環境を独立して構築)に比べると、規格から見た分かりやすさが劣るのが唯一の欠点だ。「分かり難い」ことと「不適合」とは別物だが、へなちょこ審査員の手にかかると理不尽な指摘を受ける恐れがある。組織の活動をしっかりと観察し、基準となる規格に照らして淡々とジャッジできる審査員であれば良いのだが、いつも良い審査員に当たるとは限らない。審査員にバラツキがあるのは厳然たる事実だ。


 だからと言って審査対応を過敏に盛り込んだシステムにするのは本末転倒だ。例えば、審査での説明のしやすさのために、あらゆる作業要領書(作業手順書)の全ての項目に品質、環境、労働安全衛生の識別を追加するようなことは仕事のやりやすさや質的向上には関わりの無い作業だ。もし識別記号を加えるとするならば、その目的や効果をよく自問自答してから決定してほしい。
 

 また、審査員の“発言”を鵜呑みにしてはいけない。「こうした方がいいですねぇ・・・」といった指摘?やアドバイス?の中には、その動機が「審査レポートを書き易くするため」や「判定委員会での受けの良さ」を良くするために、言い換えれば「審査員にとって審査をし易くするため」の(審査員のための審査員による)指摘としか考えられないものがある。そのような指摘を受けた場合は、即座に反論することが肝心だ。「毎年審査があることだし、ラクだから・・」などと日和見根性を出すと、どんどんシステムがおかしくなって行く。指摘の意味と根拠を納得行くまで議論し尽くす姿勢を大切にしたい 
 

 審査員へのサービス精神は、船底につく貝殻のように組織の船足を損なう場合が多いので注意が必要だ。審査を円滑に行うことよりも組織の能力を高めることに焦点を当てることが大切なのだ。そして顧客、市場、社会へのサービスを最大限に実現することだ。審査員はコンサルタントではなく、まして企業・組織の成功や失敗の責任を取れる立場に無いことを忘れてはならない。奢らず臆せず審査に臨み、システムの改善点を自ら見つけ出す機会にしたいものだ。

その5:統合マネジメントシステムの妥当性確認

 マネジメントシステムに何を期待するのか、マネジメントシステムで何をやろうとするのかを明確にし、周知しておくと良い。マネジメントシステムの出来映えを知り(測定し)改善の必要性を判断する物差しとすることができる。

 
 これが曖昧だと、「こんなはずではなかった」とか「何の役にも立たない」といった不本意な批判に曝されることがある。この手の批判は、「どんなはずだったのか」や「どうありたいか」という本質的な問題には触れず、「本来の目的を満たすための代案」や「仕事をやりやすくするための提案」といった建設的なものに発展することもなく、ひたすら「気に入らないこと」や「やりたくないこと」を並べ立てることが多い。「やってみたらこうなった(どうしましょう?)」ではなく「これをねらいに、このように活動し、こういう結果になった」という脈絡が大切だ。現象から現象を見た批判は、本質的な改善に至る確率は極めて低いものだ。


 「どうありたいか」や「何をやろうとするのか」は、“方針”にしっかりと表現し、その背景や補足を“マネジメントシステムの目的”の項を設けて記述すると良いだろう。大切なことは、マネジメントシステムの運用結果の良し悪しを判定できるように設定することだ。パフォーマンスを含めて、項目、指標、水準を示すように努めたい。数値化できれば理想的だが、定性的なものでもかまわない。出来映えを判断する基準(どうありたいか)を予め明確にしておくことが大切だ。


 マネジメントシステムの枠組みや判断基準を明確にすることで、マネジメントレビューの有効性を高めることが期待できる。運用結果や成果を判断基準に照らすことで問題が見えやすくなるわけだ。正確でタイムリーな情報を把握し報告することは基礎として重要なことであるが、脈絡の無いデータではアクションにつながるような意味のある情報にはならない。マネジメントレビューは、問題点を明らかにし、企業・組織を方向付ける格好の場だ。経営トップのリーダーシップが発揮されない場合、活動が沈滞・迷走する確率は極めて高いものになる。マネジメントシステムの成功は経営トップの関与に大きく関わっているのである。
 

 変化の激しい時代である。当初定めていた「ありたい姿」の前提が大きく変化していることが往々にしてある。市場、顧客、社会など、企業を取り巻く周囲の状況の変化を見定め、方針を含めてマネジメントシステムの妥当性を確認(validation)し、必要に応じて変えて行くことが望まれる。これについても先ず「現在のありたい姿」が明確であることが大切だ。現状と前提の変化から「変えるべきこと」と「変えてはいけないこと」を明確にすることができ「これからのありたい姿」を明確にすることが容易になる

 こうした関係をISO9001で言う「検証と妥当性確認」をもじって図にしてみた。参考までにご披露したい