食品業へのISO9001:2000品質マネジメントシステムの導入
記事提供:山口 博氏

1. ISO9001:2000品質マネージメント・システムとHACCPとの取り組み
ここ最近みられる食品メーカーの消費者の信頼への問題は、企業の売り手利益優先型の経営がもたらす断片的な弊害の現れとして顕著に表れているものでもあります。
食品企業は今なにをしなくてはならないのか、それは、部分的、一過的なものではなく、今後の展望を含め企業そのものの質の改善と責任、約束を社会的公共性の原点にたってマネジメントを考えていかなくてならないことを意味すると思います。
また、食品産業におけるISO9001:2000への取り組みはこれからの食品メーカーの企業体質を大きく変える影響をもつ重要なシステムであると思います。
ここでは、社会や顧客、消費者という公共性に対し、食品メーカーがどのような品質マネジメントシステムを考えてく必要があるのかを考えてみました。
2. 食品にもとめられるニーズ
現在加工食品にはJAS法をはじめ、食品アレルギー表示制度、遺伝子組替え食品に関する表示、栄養表示、危害予防のための管理など、様々な法的要求が新たに要求されております。
これらはいずれも、食品が私たちの生活の中に無くてはならない一番身近なものであり、かつ、生産物として常に消費者の権利に大きな影響を与えるものであるためです。
しかし、これら様々な要求事項を、その場その場で断片的に対応していったのでは、企業マネジメントとして非常に実際的なものにはなりません。
結果、それらの要求ニーズを表面的に考えてしまい、違反性に抵触しないための形骸化された管理に陥ってしまいます。実際的に、そうした状況では企業はいつまでたっても消費者や社会的なニーズにあった経営マネジメントを展開していく術を見出すことはできません。
これらの様々なニーズはいずれも消費者の権利、消費者が不利益を被ることがないために何をするかという前提にたったものであり、結果として公衆衛生や消費者に対する製品責任をメーカー果たしていくことができるようにしなくてはなりません。
新JAS法 遺伝子組替え食品の品質表示 いずれも消費者の権利保護の観点にたって表示基準であり、製造管理基準であり、適正な選択性に資することを目的として制度化された法的ニーズである
新JAS法 | 遺伝子組替え食品の品質表示 | いずれも消費者の権利保護の観点にたって表示基準であり、 製造管理基準であり、適正な選択性に資することを 目的として制度化された法的ニーズである |
| 同上 | 生鮮食品の品質表示 | 同上 |
| 同上 | 加工食品の品質表示基準 | 同上 |
| 有機JAS | 有機食品のJAS表示制度 | 同上 |
| 食品衛生法 | 栄養表示制度 | 同上 |
| 同上 | アレルギー食品表示制度 | 同上 |
| 同上 | 総合衛生管理製造過程 | 同上 |
そして、これらは同時に、これら消費者ニーズの観点にたって考えるという本質を基盤においた企業マネジメントを展開していくことができなければ、非常に大きな間違いを起こしやすい側面を持っています。
「やらなくてはならないのか・・」という考え方ではなく「なにをしなくてはならないか」ということを考えていく必要があると思います。今、明確に、そうしたマネジメントを考えていく大きな岐路にたっていると考えなくてはなりません。
3・顧客重視、消費者重視の企業マネジメントの必要性
上記のように、今までの企業論理の観点にたったマネジメントでは、これら様々なニーズについて、本質的に対応することはできません。
また、ある意味、上記にあるような法的ニーズというのは、基本的なことにすぎないと思います。
むしろ、常に顧客、消費者ニーズに目を向けたマネジメントを考えていくと、これらは食品産業にとって必然的なものであることがわかります。しかし、あらためて考えてみると、消費者ニーズは食品産業の現場の中では漠然と反面的に気が付いていた部分がたくさんあるのではないでしょうか。それが、各種法制度の中で整理されてきたのだという印象も受けます。
4・スタンダードと品質マネジメントシステム
規格やスタンダードの導入を通じ、まず、私たちはそこから客観的な“あるべき水準”を見出していく必要があります。プロセス個々にある、本来自らが負う責任と管理基準を常に見出していくことができなくてはなりません。
「この段階の管理基準はこれでいい・・」
それを決めるのは、製品責任の上でどうなのか?或いは顧客要求基準の上でどうなのか?
前段の要求ニーズを満たす上でどうなのか?
こうしたことを自社プロセスの中で常に考え更新する必要があります。
そして会社全体が要求品質を満たしていくことができる継続的な改善活動へと展開されていかなくてはなりません。目指すところは常にスタンダードの一歩先にある市場や社会へのニーズを満たしうるところにあります。
様々なスタンダードは本来そのように向き合っていくことができなければ、規格やスタンダードそのものが必ず間違った方向に一人歩きし、独自の解釈や基準に満足するだけの弊害を生みます。
食品メーカーは今、消費者や顧客の重視の考え方にたった全体のフレームとなるマネジメントシステムの中で各種ニーズを満たす技術的なスタンダードを組み入れた統合マネジメントを考えていく必要があります。
5・なぜHACCPが必要なのか?HACCPシステムとは、食品の危害予防管理プログラムであり、常に最善の安全性を確保するためのシステムです。これをどのように実際的な企業マネジメントとしていくかが今、食品産業の場で問われているところでもあります。
HACCPシステムでは、まず、使用原材料、その調達過程にいたるプロセスからはじまり、製造加工過程、製品管理、流通の中で考えられる潜在的危害性を一つ一つ予防、防止し、特に重要な危害性に影響を及ぼす段階においては基準を定め、監視、記録、是正、検証を行うよう計画をたて、食品そのものの安全性をトータル的に管理する一連のシステムです。
このシステムの中にあっては、BSE危害についても、当然原材料の安全性において十分管理することが必然になります。アレルギー表示においても、適切な表示を行うことで、消費者の適切な選択性において十分配慮することが必要になります。
HACCPシステムを運用するこは、消費者の権利保護においてメーカー製造者がやらなくてはならない不可欠な取り組みであるといえます。
6 ISO9001とHACCP
ISO9001:2000品質マネジメントシステムを食品企業の中でどのように運用するか、このスタンダードをどのように考え、自社の企業マネジメントとしていくかは、それぞれの考え方によりますが、顧客重視、消費者の立場にたって考える企業マネジメントの質が問われている現在の食品産業においては、具体的な考え方が明確に示されております。
そして、ISO9001:2000のマネジメントシステムと向き合うとき、食品産業のマネジメントにはHACCPシステムの考え方が必然的に要求されます。
以下にISO9001:2000版品質マネジメントシステムの要求規格とHACCPシステムの適用を示す部分を簡単にまとめます。※詳細は割愛
6-1 品質マネジメントシステムと品質マニュアル
品質マネジメントシステムが規格要求事項に従って、自社のどんな目的により構築されているか、また、必要なプロセスを明確にし、文書化し、実行し維持することを宣言します。
そして、それらの手順や計画を示す品質マニュアルの文書化を構築します。
特に食品産業においては公衆衛生に対する安全品質ニーズを根底に据える必要があります。公衆衛生に対する社会的責任はメーカーの存在そのものを示すものであります。
その上で構築された品質マニュアルは、消費者や顧客重視の前提にたった品質マネジメントシステムであり、製品への責任とサービスの品質に関わる活動に適用されます。
品質マネジメントシステムは製品品質に対する消費者への責任と顧客満足に影響を与える活動全般を適切に継続的に管理することを求めるように定めていきます。
ISO9001:2000で求められている「文書化された手順」により、何を、誰よって、いつどこで行われなければならないかを記述していきます。
6-2 経営者の責任
経営者のコミットメントとして、品質マネジメントシステムの運営が消費者、顧客志向を基本においた企業マネジメントとして考えていることを明言します。
経営者はこの品質マネジメントシステムの効果的維持管理において技術的な手法、管理、資源の提供などすべてについて責任を有し、常に変化する市場環境、社会環境に適合できるよう定期的なレビューを行う責任があります。
食品産業においては、消費者の権利保護や社会的責任、顧客満足のために実行するべき活動、情報の抽出、技術的システムの導入、品質マネジメントシステムを効果的に運営していくため方法を明確にする必要があります。その中で、経営方針と同質の品質方針を定め、その方針を満たすための具体的な活動と計測可能な目標を定めていくことが必要になります。
・消費者、顧客志向・重視の考え方が基本のシステム。
・そのための品質方針
・品質方針を達成するための品質目標
6-3 マネジメントレビューへのインプットとアウトプット
マネジメントレビューは、運営する品質マネジメントシステムを適切な状態に維持するため、どのような手段、方法により内部改善の手がかりとする方法を明確にします。
1)レビューにインプットする内容と情報
2)どのような場面でレビューを行うか。
3)予見される技術的ニーズへの対応や新たな技術要求
レビューの結果、適切な方法で品質マネジメントシステムを運営するためにどのような方法で事項させ、速やかにシステムに反映させるための方法を定める。
6-4 資源の運営管理
食品ニーズを消費者、顧客の重視の考え方にたって満たすためにどのような経営資源を提供していかなくてはならないかを明確にします。
当然、GMP(食品適正製造規範)要求事項も経営資源として考えなくてはなりません。
充実したサービス活動や社内伝達方法の一元化に必要なネットワーク環境も重要です。
1)人的資源
2)インフラストラクチャー
3)作業環境
6-5 製品実現
食品製造販売における製品の実現とは、会社の品質方針や品質目標に掲げたテーマについて品質マネジメントシステムを計画し実行し継続的改善の中で提供される製品やサービス全体の品質をどのように具現化していくかということを明確にすることです。
食品ニーズに求められる責任を製品という形に具現化し、提供する上で、トータル的にどのような計画で実行するか、その手段を具体的に定めて行きます。
製品の実現には、品質マネジメントシステムのプロセスの相互関係によって明確にされたすべてのプロセスに対し計画をします。
その方法とは、品質マネジメントシステムの全体像でもある、ニーズの抽出(インプット)から始まり、会社システムの中でPDCAを通じアウトプットされるまでの過程全体であります。
提供する製品とサービスの性質によってどのような手段を講じるかはそれぞれ異なります。
必要なプロセスをもっとも効果的な方法で計画し、実行する方法を明確にします。
特に食品産業のプロセスにおいては以下のようなことが必要になります。
6-5-1 顧客関連のプロセス
製品の実現はこの顧客とのプロセスにおいてどのような要求と約束を満たしていくかから始まります。食品においては、まず、顧客とはどの相手を指すのかということを考えなくてはなりません。一次契約取引業者のみのことを考えれば良いのかというと、そうもいえません。
食品は複雑な流通過程を経て一般小売業者、量販店を経由し、消費者へその製品が販売されます。
そして、商品そのものの評価価値は最終消費者の評価によって定められます。
食品の最終評価は連動して直接の取引顧客のニーズを満たすことにもつながります。
a. 販売メーカーとしての顧客
b. 流通業者としての顧客
このように考える必要があります。
その上で、製品に関する要求事項を明確にする方法を定めます。
aにおける販売取引上の契約確認方法、納期、要求事項、受注の方法、変更管理の方法、取引開始後の付帯サービス活動の必要性、それらをどのような方法で社内にフィードバックするのかということを考える必要があります。
bにおいて、販売後の消費者との窓口を通じて、フォローする方法を考えることも重要なプロセスであります。
必要に応じ社内において顧客への供給前にレビューすることも必要になります。
A)消費者や顧客要求事項がどの程度明快に特定されているか
B)暗黙のニーズがあるか。
C)製品もしくは、サービスは顧客要求事項をどの程度適切に満たしえるか。
D)製品サービス、責任、保証及び規制に関する自社の責務。
E)当社の提示した納期及び条件、製品仕様いついて、顧客は理解認識しているか。
6-5-2 顧客とのコミュニケーション
上記、顧客との取引の中で双方向のコミュニケーションが可能な状態を維持する必要があります。
顧客とのコミュニケーションの中で特に最近必要であると感じることは、アレルギー物質や主原料に関する情報をいち早く消費者や顧客に提示する手段、方法の必要性です。
膨大にあるこれら内在的な情報は、今、末端消費者の選択性において有用に生かされ活用されることが求められております。その中にあって、製品包装表示では明確に説明できないものも沢山あります。
このような顧客、消費者とのコミュニケーションのひとつにインターネットを通じて広く製品に関する情報を明確に利用してもらう環境を整備することも必要であります。
製品個々に使用されている原材料の明細や由来、アレルギー物質となる固体、添加物、そしてそれらの安全データシートなど明確に開示することが求められているのです。
「何も言われていないから・・」とするのは十分な顧客コミュニケーションを実行しているとはいえません。
食品産業の現場で特に目立つ傾向として、とても秘密が多すぎるのです。
製造由来の追跡性情報などは常識的なニーズであると感じています。
今回の原産地偽装問題にあっても、小売までの流通段階で消費者に不透明な部分が非常に多すぎるため誘発した間違いであったともいえます。
あたりまえに、今目の前にある食品がどのような段階を経て生産され、輸入され、どこで加工され、目の前にあるのか、消費者が追跡可能な環境が無いということがこの問題の直接的な原因であるようにも感じます。
6_6 設計、開発
食品における設計、開発活動とは、主に新規販売商品の開発活動を指します。ここでは、前段の顧客関連のプロセスから得た顧客からの直接的な要望で企画立案する製品やサービス活動も含みます。
場合によっては製品以外の場合もあります。
設計開発の際には、食品として法的要求事項や食品の危害分析やHACCPプランを前提に含める必要があります。全体の流れとしては開発商品のインプット事項を冒頭に明確に計画し、市場に出す前にレビューを実施し、妥当性評価を行うようになります。
6_6_1 設計、開発の計画
設計開発に際し、計画全体のプラン、商品コンセプト、レビューの各段階をどのように進めるかなど定めて行きます。
6_6_2 設計・開発へのインプット
食品の企画開発においては、まず、基本的要求品質を満たすため法的ニーズ、顧客ニーズを含む品質基本要素を設計開発段階においてインプット事項とし明確に定める必要があります。
こうしたことを曖昧に進めてしまうと、後々量産販売後、個々の改善要求が発生した場合、修正しにくい場面も往々にして生じます。必要なことは最初の段階で明確にし、それらを一つ一つクリアしていくように定める必要があります。
| 製品の法的基準値(食品衛生法) | 基本要件 |
| 潜在的危害の排除 | 同上 |
| 顧客の要望、消費者ニーズ | 同上 |
| 機能性(品質保持能力及び消費者の便利性) | 同上 |
| 過去の類似データの活用 | 同上 |
| 自社適用基準(自社の管理基準) | 同上 |
| 価格的要求(自社・顧客) | 合意事項 |
| 原料の要求事項 | 同上 |
| 流通条件、保管方法の確保 | 技術要件 |
6_6_3 設計・開発からのアウトプット
設計、開発の内容が具現化する中でインプット事項を検証するためにどのような手段、方法が有効なのかを明確にする必要があります。
a.適合性基準に関するデータ及び記録(試作製品の分析検査表、保存データ、衛生評価記録)
b.製造加工手順書、製造フローダイヤグラム、
c.製品仕様、特性、使用管理方法などに関する製品仕様書
6_6_4 設計・開発のレビュー
設計、開発のレビューでは、開発商品が計画した通りの仕様となっているか、或いはその段階でどんな課題があるのかを明確にします。
可能であれば実際に大量ロットで日々生産してレビューを行うことも必要です。
レビューではインプットに計画した内容の各要求事項が客観的に判断できるようにします。
6_6_5 設計、開発の検証
開発、設計された製品について最終段階で社内におけるすべてのインプット事項について適切に満たされているか、課題事項はクリアされているかなどの検証を行ようにします。
食品の場合は、個々の内容について客観的なデータをもとに検証する方法が主になります。
傾向として、味や外観性などの問題や価格のみが議論されがちになり、中身の問題についてはよく検証されないまま市場に出回ることが多くあります。
そのようなことが無いよう、製品としての検証ができるようにする必要があります。
a.品質検査結果、HACCP計画や工程フローの説明。
b.工程管理基準についての報告
6_6_6 設計、開発の妥当性確認
食品の設計開発品について妥当性検証評価とあわせ、実施可能な場合、市場販売前の適切な段階で実際に量産ラインに乗せ、製品を試作し、それを販売し、顧客や消費者の評価を記録してみることも必要です。
味についてはどうか、或いは量産製品についての保存試験を再確認してみる。
そういう評価を行うことも必要になります。
6_6_7 設計の変更管理
企画開発の妥当性確認を得て、生産販売を行っている製品についてその仕様上或いは規格に変更の必要が生じた場合、変更内容を確認しあえる方法を明確にします。
6-7 購買
食品における購買プロセスは、ニーズを得て実際に製品を製造する上で必要な原材料や資源を調達する全般を指す重要な影響をもつプロセスになります。
特に食品においては購買調達品に使用する原材料について使用の段階で機能性が十分であるかどうかを判断することが困難な場合もあります。
各種主原料は、どのような由来によって漁獲、生産されているのか、或いは加工品であれば、自社が品質マネジメントシステムに要求する製品への要求ニーズを満たす要素をもっているか、
必要な要求と合意確認と、共通の認識をもってお互いにとって有益な取引関係を維持できるようにする必要があります。自社が必要なニーズを明確にし、調達先に対し要求することは、自社の向こうにある消費者や顧客に対し必要なことであります。お互いが必要な協調関係の中で購買取引関係を連鎖させていくことが、流通全体にとって技術向上や継続改善にもつながっていきます。
無理なことを、強引に要求することも危険なことです、また、そうした無理な要求に対し、まるで手品でも見せるようなことがあってはなりません。
今回の原産国不正操作の問題では、消費者に渡る流通の中で、各業者間におけるニーズが偏り、結果として消費者の側にたった有効な取引関係が無かった点も大きく上げられると感じます。
お互いが偏った要求を強引に取り付け、要求する、その過程がブラックボックスであったため、必要なコントロールができなかったという事情もあったと思われます。
ここでは、要求する側が、まず、この規格要求にある消費者、顧客主導の観点にたって、必要なことを明確に要求する。そして、そのプロセスがしっかりと確認できる、そういう正統な購買調達関係が今後特に必要であると思います。
6-7-1 供給者の評価と選定
自社が要求する品質ニーズを満たすことのできる調達業者を正しく選定する方法を明確にすることは非常に大切なことであると感じます。
ともすれば、昔ながらのもちつもたれつという馴れ合いの関係でお互いの都合のみの取引が優先されることも今まで多くあります。結果、主役の消費者や顧客が見えない状況に陥り、お互いのためだけの取引と利益を追求するだけの関係があたりまえになってしまいます。
そういう状況が発生しないよう、過去の取引や納入品の品質実績や能力をしっかり評価し、把握した中で購買取引を行うようにする必要があります。
6-7-2 購買情報
購買取引を行う各種原材料について、要求する内容を明確にし、相手に要求をする要領を具体的に定めていきます。特に主原料や使用食品添加物の情報について、JAS法への対応やアレルギー表示制度における使用原材料の由来、製造過程、遺伝子組替え農産物の分別の有無など、製品の安全性や由来に関わる重要な要素になります。
| | サンプル | 数量 | ブランド | 条件 | 規格書 | 原産地証明 | 製造由来 | 安全データ |
| 冷凍輸入原料 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | | |
| 生鮮原料 | | ○ | ○ | ○ | | ○ | | |
| 複合原材料 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 食品添加物 | | ○ | ○ | ○ | ○ | | ○ | ○ |
必要な情報や取引方法は、それぞれ異なりますが、扱う内容によって必要な情報や確認方法を明確にしていく必要があります。
6_7_3 購買品の検証
調達原材料が要求事項を満たしているか、どのような段階において、どのような方法で実施するのが適切であるか、その方法を明確に定めていきます。
食品の原材料の場合、多くの評価は直接的な納入時の抜き取り評価によって確認をする以外に、日々の取引の中で様々な情報をもとに判断することも必要になります。個々の取り扱う種類によって、何を検証とするか、その方法を明確にします。
| 種類 | 受入検査方法及び検証 | 同左 | 同左 | 同左 | 同左 | 頻度 |
| 同上 | 受入基準 | 自主検査 | 抜取検査 | 工程記録 | 産地情報 | 同上 |
| 委託加工品 | 指定基準 | ○ | ○ | ○ | | 納入単位 |
| 添加物 | ※該当する場合JAS、JIS規格・HACCP基準 | ○ | | | | 同上 |
| 副原料 | 他業界基準の適用。 | ○ | ○ | | | 同上 |
| 資材 | 規格、数量、表示事項、製品状態の確認 | ○ | | | | 同上 |
| 冷凍原料 | 購入ロットのサンプル品検査及び加工適合性認 | | | | ○ | ロット毎 |
| 生鮮原料 | 現地における現物評価(鮮度) | | | | ○ | 同上 |
6_8 製造及びサービス
製造及びサービス提供について、具体的にどういう手段、方法を通じて実行していくのか、管理方法を定めます。
食品においては安全な品質確保を前提とした、製造プロセス、出荷流通引渡しにおけるすべて工程を考え、要求されるサービス活動を適切に管理するようにします。
6_8_1 製造工程の管理
製造工程では安全な品質の確保・納期の適切化、生産活動の効率化を主軸におき、一定かつ安全な品質の確保において必要なプロセスの管理を目的とします。また、プロセスと結果が要求品質を満たしうる条件を維持しているか、定期的に検証を行う方法も含める必要があります。
| 管理内容 | 運用文書 | 手順 |
衛生標準作業 製品規格の管理 作業手順の管理 工程品質の管理 最終製品のロット管理
| 製造フローダイヤ HACCP計画 生産作業手順 | 工程は製造フローダイヤグラムに示される。 作業手順は各種参照手順、計画書に基づく。 工程管理は作業担当者により所定のシートに日々記録される。 管理責任者はこれを日々精査する。
最終製品はロット毎に識別され抜取り検査を行う。
引渡時は規定(表示事項、規格)を担当者が確認し出荷する。
工程は1ヶ月ごとに科学的な手法で検証評価する。
|
このように定めておくと、全体の流れが明確になります。製造出荷移行において、製品やサービス活動に重要な影響をもつプロセスについてもどうように管理方法を明確にします。
6_8_2 製造及びサービス提供に関する妥当性確認
食品の場合、最終消費者における賞味使用時あるいは使用後において評価が明確になります。
それらは、売りっぱなしや販売者に預けっぱなしであればまるでわかりません。
「何も言われないから大丈夫なんだ」とは一方的な論理です。
段階別に、その製品が市場に出荷され、販売され、消費者にどう賞味されているのか、また、そうした部分に影響を強くもたらす工程については管理の方法、担当者に必要な資質、技術的方法を明確にしておく必要があります。
1)製品の機能性や安全性の加工に重要な影響を及ぼす工程を特定し、担当者の資格要件を明確にする。
HACCPプラン上に規定された重要管理点の工程は、結果の妥当性が安全品質において重要な意味をもつ部分であり、設備の管理維持や作業従事者の適正な資格要件により維持されるものでもあります。
これらの工程について要員の資格、不在時の代行者、検証方法(HACCP計画全体の評価)を適切な頻度で実施するなどの方法を定めておく。
2)市場における販売管理指導や情報提供によるサービス活動
実際に市場流通の中では、往々にして適切な状態で製品が管理されていないケースが多くあります。
品質表示事項とぜんぜん異なる状態で店頭販売されていたり、注意表記事項が明確に理解されていなかったり、実際に多くの消費者苦情として寄せられる製品問題は、こうした流通過程における必要な情報管理、サービスが適切に実施されないことによって生じている現状もあります。
食品は売りっぱなしでなんとかなるようなものではありません。消費者に届けられる各流通業者がお互いフォローしあってはじめて消費者に間違いの無い製品が届けられることができます。
依然、実際にあったケースとして、出荷販売した製品にカビが発生したという苦情が消費者電話に寄せられました。
流通過程をたどっていくと、荷受業者以降、中卸業者が3社介在し、小売に流れていました。
どの業者も扱った製品の状態がどうだったかわからない・・との反応でした。しかし、中間卸業者で、大量のストック品が必要な管理条件を満たさないで販売卸されているという事が判明しました。
ここでは結局「そんな細かいことをいうなら、もうお宅の商品は引き上げる」という反応でした。
こうした複雑な流通過程でいえることは、お互い、卸し利益のことばかりが先にたって、肝心の中身の質についてはまるで意識がない感覚です。これは、上流の管理を確実に下へ共鳴させていくようにする必要もあると感じます。
6_9 識別及びトレイサビリティ
食品において特に、プロセス内の製品識別は製品ロットを明確にする前提となります。また、工程における製品の識別は、消費者や顧客の意図しないものが間違って出荷されないようにする最低限必要な管理であるといえます。
また、識別は、問題が発生したとき、速やかに追跡可能な状態にし、問題被害の発生を最小限に制御するための必要不可欠な管理といえます。
プロセスにおいて、扱う原材料の性質や条件が異なれば、それも明確単位やロットを適切な方法で識別管理する必要もあります。ごっちゃにされていればどうしようもありません。それは乳業メーカーの食中毒問題でも明らかです。
膨大な調査時間、労力を1年費やしても、明確な答えが出てこなかった根本的原因は、こうした識別と追跡性がプロセスの中でしっかり実施されていなかったことが原因の大きな要素であると感じます。
また、出荷後、実際に問題があったとき、製品自体の識別やプロセスとの相関性が明確でなければ、被害を迅速に食い止め、必要な処置を実施することはできません。
食品においては、識別とトレイサビリティは不可欠な条件といえます。
製品の識別
a.凍結原料_適合品は規格名、受入納入ロットを確認し識別表により指定冷凍保管庫に格納する。
b.包装資材_適合品は受入担当者の捺印後、指定の棚及び置き場へ現品票とともに収納する。
c.製造仕掛品_品名、数量、重量、加工日、保管期限及び保管管理担当者を記載した識別表により指定保管場所にて保管する。
d.最終製品_最終製品は個々の製造ロット番号或いは所定の製造日表記により識別される。
実際に、トレイサビリティについて各段階の追跡性情報体制を明確にしておく必要があります。
| 製品 | 販売流通課 | 試験検査 | 生産課 | 購買課 |
| 製品ロット番号 | 納品伝票 出荷記録 在庫管理記録 | 製品試験成績書 | QC管理記録 設備管理記録 製品引記録 | 受入調査記録 原料受払管理台帳 保管施設管理記録 |
また原材料の管理では使用ロットと製品ロットの整合性や、アレルギーやBSE危害についてのトレースが可能なように整備する必要があります。
| 製品ロット | 主原料 | 原産地由来情報 | 原産地証明 |
| 同上 | 副原料 | 配合品の由来と製造管理記録 | 配合物質の特定 |
| 同上 | 食品添加物 | 複合添加物品及び製造由来 | 同上 |
| 同上 | 包装材 | 安全データ及び検査証明 | |
6_10_1 検査測定機器の選択
製造工程及び製品保管、流通及び製品品管理で使用される検査測定機器は種類別に精度要求を明確にする。
工程検査 要求精度
計量機類 1_10g単位 誤差1g以内
温度計 標準温度計誤差1.0℃以内
6_10_2 検査測定機器の精度管理と校正
使用する検査測定は適切な頻度、要領でその精度管理と保守管理を実施します。
精度の適切な維持管理について日々の使用や定期的に必要な方法を明確にします。
また、それら点検管理内容は記録し、精度管理の状態をシール票などで明示するような必要もあります。
それら一連の精度管理の状態は連続的に前段の製品の追跡性情報にトレースできるようにする必要があります。
| 管理部門 | 検査目的 | 種 類 | 点検・校正の方法 |
| 生産部門 | 製品及び配合品重量計量 | 計量機 | 日常管理:JIS検定分銅にて使用時に精度点検を行う 定期検定:製造から3年毎に計量検定所の検定受検 |
| 同上 | 温度管理各種 | 温度計 | 標準温度計にて3ヶ月毎に点検する |
| 同上 | 金属異物の探知 | 金属探知機 | メーカーによる保守管理(1年毎) |
| 検査部門 | 製品試験検査 | 標準温度計 PH測定機 | 外部検定依頼(3年毎) 外部校正サービス(3年毎) |
| 購買部門 | 重量の計量 | 計量機 | JIS検定分銅にて使用時に精度点検を行う |
| 同上 | 庫内温度の測定 | 温度計 | 標準温度計にて3ヶ月毎に点検する |
| 販売部 | 温度チェック | 温度計 | 標準温度計にて3ヶ月毎に点検する |
6_11 測定、分析及び改善
経営者は、これらプロセス全体の管理や監視の実行によって得られる情報や実際のプロセスの活動の情報を通じ、品質システムが適切な状態に維持管理されるよう事実に基づく必要な判断と決定を実行していく必要があります。
プロセスにおける各管理責任者は、定められた計画をPDCAで実行し、その状況を正しく経営者に報告する義務があります。
1)製品の適合性を実証するために製品の監視及び測定
2)品質マネジメントシステムの適合性
3)品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善
今まで、多くの経営者は、蓋をあけてみて初めてわかった、どんなことが現場で起きているのか、まるでわからなかった、といって大きくなった問題に苦しい対応をしている状況が見られます。
また、実際に被害や危害として発生している現象は、それそのものが本質ではありません。
すべての食品自己にみられる本質の姿はプロセスに有ります。
本来の責任主体を経営概念に組み入れていなかった・・
リスクを正しく評価できていなかった・・
変化を敏感に見ることができなかった・・
情報を適切に経営判断に反映させる仕組みが無かった・・
曖昧な根拠で一方的な判断をしていた・・
実際におきている問題に対し必要な処置を講じていなかった・・或いは必要と考えることができなかった・・
そうした一連の結果が、食品事故の本質であります。
食品事故の現象そのものは結果の断片にすぎません。
その組織の経営者、組織の責任者、社員、職員が自社に求められるニーズを明確にし、皆同じ認識の中から必要なプロセスのアプローチを行う、自分たちの取り組みと消費者、顧客とのつながりを常に明確に表し、継続的な最善を目指す活動を展開する。
ここでの測定、分析及び改善とはそのような意味があります。また、そんな取り組みが今、食品産業には強く求められていると思います。
7 おわりに
2年前に同じISOスタンダードの取り組みをした同業系列業者がいます。
ここの工場は関東方面で日配の業務用弁当製造を事業とする工場です。その担当者が先日私にこんなことを言ってきました。
「うちも最近景気が悪くて、ISOの認証をやめることにした。だってISOやったってさっぱり儲からないから・・」
ここの経営者幹部たちは結局ISOという認証看板に利益性を求めていただけのことでした。
では、実際に彼らがどんな取り組みをしていかたというと、ISOの認証を取るための仕事、システムの意味や自社の必要な中身に言及せず、ただ、複写コピー文書を山のようにファイルし、審査のためのシナリオをつくり、売上に結びつくと案に期待していただけでした。
いわゆる古いバブル期の再現をいつまでも夢見る人たちです。消費者の権利、顧客満足などという概念はサラサラありません。あまりにも知恵が無さすぎます。また、そうした考え方をみていると、品性がなく、胡散臭い詐欺師のような印象を受けます。でも、それが当たり前だった時代があります。そして、今でもその再現を夢見る経営者が多いのではないでしょうか。
本質を変え、これからの時代の必要性に根ざした経営をしていかなくては、食品という消費者や私たちの暮らしになくてはならないものを信頼することができない、そんな怖い社会になっていくのではないでしょうか。
日々食品現場の中では、まだまだ、改善し、本質を変えていかなくてはならない仕事が私には山ほどあります。
できることの限界もあります。でも、そんな葛藤と接し、できる最大限のことをしっかり取り組んでいくことが自分自身の責任であると感じています。
そのために、消費者、顧客の原点にたった経営マネジメントシステム、安全衛生に対する責任を果たせるメーカーにしていくことが必要であると感じています。
以上