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6 戦略、方針およびコミュニケーション

6.1 戦略的方向づけ
 

組織とその環境との相互関係は独自性が高い。結論的に、持続可能性のためには、組織が自身の戦略的な方向付けを策定し、展開する必要がある。     

組織は、外部および内部の環境を分析して持続可能性を維持するために必要な現在および将来の組織能力を決めるべきである。戦略的な方向付けは、組織の現在の能力と現在の環境もしくは想定される将来の環境を満たすために必要となる能力とのギャップを満たすことに着目して行われるべきである。さらに、これらのギャップの理解を通じて判明したリスクと機会に基づいて組織は戦略的な方向付けを策定すべきである。組織は、環境の変化に対応することが確実にできるようにその戦略的な方向付けを見直し、必要に応じて改定するべきである。

6.2 ミッションとビジョン
    
組織環境を理解し、分析することにより、経営者は、組織のミッションとビジョン、その達成に求められる戦略的な方向付けを確立することができるようになるべきである。     

ミッション(なぜ存在するのか?)とビジョン(どのようにないたいのか?)は、組織内外の分析に基づいて策定されるべきである。         

組織は、社会的な環境の中で明らかな目標、もしくは目的を持つべきである。組織は、利害関係者、組織の特性および組織自身の力量への関係を理解した上でミッションとビジョンを明確にすべきである。     

ミッションは、組織が利害関係者のための創造を追い求める価値を記述するべきである。     

ビジョンは、組織が達成したいと望み、いつかの時点でその必要な力量を備えたい状態を表す。

6.3 戦略の側面
    
組織は、持続可能性の達成に向けたミッションとビジョンを満たすための戦略を策定すべきである。これには以下の事項への配慮を行う必要があろう。すなわち、

    
 ・動向を含む外的環境     
 ・利害関係者のニーズと期待     
 ・組織の能力と経営資源     
 ・過去から学習した事柄

6.4 方針と目標
 
方針と目標は、組織の望む結果を明確にするとともに、これらの結果を達成するために組織が経営資源をいかに活用すればよいかを支援する。

組織は、以下の事柄を行うための戦略に基づいて方針と目標を確立すべきである。すなわち、

  ・組織の向うべき方向を示す     
  ・関連するすべての利害関係者に計画が確実に伝達される     
  ・方針と目標は持続可能性を目指していることを保証する

    
組織のミッション、ビジョンおよび戦略に基づいて策定された方針は、目標を確立し見直すための枠組み(フレームワーク)を提供する。     

目標は、方針を実際の運用に向けるために用いられる。すなわち、目標は、「方針を満たすためには何をなすべきか?」という質問に答えを与える。目標は、方針と一貫性がなければならないし、その達成度は測定が可能でなければならない。目標の達成は、組織の以下の事柄によい影響を与えることになる。すなわち、

 ・製品     
 ・運営面での効果     
 ・財務的な成績     
 ・利害関係者の満足、信任、忠誠  


6.5 戦略の計画作成
      

経営資源の適切な配分、事業の主領域での成功要因の導入、および利害関係者のニーズと期待に応えるための枠組みを備えるために、組織の戦略計画作成を以下の事柄に配慮して経営者は実施すべきである。すなわち、

 ・組織の環境     
 ・新しい機会     
 ・標的とする市場と顧客     
 ・提供すべき製品     
 ・組織の能力像     
 ・経営資源の配置     
 ・リスク分析     

6.6 リスク管理
    
組織の目標に負の影響を与えるポテンシャルがあるいかなる出来事は、組織に対するリスクと考えるべきである。それに反して、組織の目標に正の影響を与えうる出来事は改善及び改革活動の機会としてとらえるべきである。     

リスクであるとの確認には、コスト、時間、製品品質にとどまらず、組織の評判、セキュリティ、確実性、組織の責任、職業上の責任、情報技術、健康上の安全性および環境を考慮すべきである。     

戦略を策定するためには、組織は以下の事柄を明確にし、分析し、理解し、そしてこれらに関連するリスクを明らかにするべきである。すなわち、

 ・技術の潮流     
 ・社会にかかわるニーズ     
 ・天然資源の入手可能性     
 ・将来のビジョンを実現する能力を含めた能力像     
 ・経営資源の獲得と配置

6.7 持続可能性を維持するための戦略の見直し
    
企業を取り巻く環境が絶えず変化していることを考慮し、しかもミッションとビジョンを達成しているかを評価するために、経営者は組織の戦略を定期的に見直しするべきである。     

見直しでは、以下の事項に焦点をあてるべきである。すなわち、

 ・マネジメント・システムが有効で、効率的で、競争力があるかどうか     
 ・戦略は測定可能な目標に変換され、組織全体での道しるべ(ガイダンス)となっているか     
 ・組織の構成とプロセスが計画した戦略に適切で、ニーズの変化に対応できるようになっているか     
 
見直しにより、戦略の適切性とマネジメント・システムが重要なプロセスに関し内外の学習すべき事項を吸収する方法を備えているかどうかを確認できる。同時に見直しは競合他社に対しての自社の業績面を比較でき理解することできる。あるいは、世界クラスか業界で一番の組織になっているかを知ることができる。また不足している点や乖離しているリスクも評価できる。     

ここで思うことは日本企業がこのリスク管理には欧米企業と比べ弱いことである。単一民族で温暖な気象のもとでは企業風土がやはりリスクに対して鈍感になるのだろう。市場のグローバル化が進む中日本企業は今一度このリスク管理を強化する必要があると思う。

6.8 コミュニケーション

6.8.1 一般
         
多くの組織内で起こった多大な費用のかかった大きな問題は社内外両面でのコミュニケーション不足に起因していることを過去の経験が示している。     

かかわりのある情報(たとえば、ミッション、ビジョン、戦略、方針、目標、運営上のデータおよびフィードバック)が効果的に伝達されるには、組織の経営者は正式のコミュニケーション方針と内外のコミュニケーションプロセスを確立する必要がある。このことは組織の独自性と持続可能性のために重要である。     

 内部コミュニケーションで考慮すべき事項     

 ・人々に情報を伝達し彼らのコミットメントを得ること     
 ・組織とその業績についての見解を集めること     
 ・改革へのフィードバックとアイデアを受取り、授受すること     
 ・法的および規制上の要求事項を順守すること   
  
 外部コミュニケーションで考慮すべき事項     

 ・利害関係者に伝達し彼らのフィードバックを得ること     
 ・組織の独自性(アイデンティティ)を促進すること     
 ・学習を進めるために他の組織との接触を確立すること     
 ・外部との関係とネットワークを構築し維持することに前向きに取り組むこと     
 ・法令および規制上の要求事項を順守すること     
 ・意思決定者に影響を及ぼすように努めること  
        
村社会のDNAをもった日本企業では、コミュニケーションを暗黙のうちに実施する慣習がいまだにあるようだ。定年後の一時期所属していたNPO法人で日本企業で長く務めた退職者の集まりでの経験から言えることである。日本以外の欧米社会でも裏で何かを伝達することは盛んに行われている。自宅に同僚や友人を招いてパーティーを開きそこで会社の問題点や将来性を議論することを数多く経験してきた。それと同時に、欧米の経営者は、公式のコミュニケーションについての価値観は高い。いまアメリカの大統領選挙が進んでいるが彼らのスピーチの巧みさを見ればそれを理解できるだろう。ただし、日本のマスコミがなぜこれほど派手に報道するのかは不可解だ。クリントンだろうがオバマだろうが日本の一般国民にどんな影響があるのだろうか。考えればわかることだが、日本の一般国民には報道されるほど大きな影響はないだけは確かだ。とはいえ、株主総会がシャンシャンで終わる時代はもう終わったのだから、マスコミを通じて何をいかに伝えられるかの日本人経営者の能力を試すことは非常に重要だと考える。

6.8.2 コミュニケーション・プロセスの有効性と効率
    
コミュニケーション・プロセスの有効性と効率は、改善あるいは改革を必要としているのかを決めるために定期的に評価され見直されるべきである。     

コミュニケーションの有効性に影響する要因には以下の事項を含む。     

 ・計画とタイミング     
 ・適切な受け手が受け入れていることを確保するためのコミュニケーションに的を絞る     
 ・伝達されるべき情報の選択性、適切性、明瞭性     
 ・コミュニケーション・チャンネルおよび技術を支援する十分な経営資源     
 ・伝達事項が受け取られ、理解されたということを確認することの必要性     
 ・完全性、秘匿性、安全性     
 ・特定の利害関係者に適切な特定の言語および形式(たとえば、電子的データの交換)によるコミュニケーションの伝動
    
コミュニケーションの道具が発達した現代で、経営者が社内外のコミュニケーションに困ることは一切なかろう。むしろ、現在の余りにも発達したコミュニケーション技術に追いついていけないことが苦痛となっている人もいるかもしれない。しかし、これを克服できないならば、潔くステップダウンすることだ。組織を運営するためにはそれほど現代では即時的なコミュニケーションが必要となっている。今晩いっぱい飲みながらなんていうことは昔話だ。     

ところで、いま中国産餃子への農薬混入が大きな問題となっている。食品安全の国際規格ISO22000があるが、そこで強調されていることは「食品のサプライチェーン全域でのコミュニケーションが重要だ」ということである。今回の農薬混入も、昨年消費者から苦情が寄せられていたにも関わらず販売者や輸入業者は特に問題視しなかったことが被害を拡大させたことは確かである。ISOでいう「コミュニケーション」とは、企業の責務としての「業務内容伝達」を意味すると理解されたい。