序文
「情報とコミュニケーション技術の発達によって世界は仮想空間的に狭くなりつつある。」という一文から規格の記述が始まる。このことから認証取得のための規格ではないことが分かろう。「組織が株主や社員などの利害関係者のために単に利益を追及したり、法律に従うだけではもはや十分ではなくなってきている。」と続く。「組織は、もっと環境や社会的責任を意識する利害関係者、一般的な市民社会、社員、顧客、そして種々のその他の利害関係者に対しての組織の説明責任が増加している。組織の創設や持続的な発展がいまやわれわれの経済的および社会的な生存の中心となっている。」と決めつけている。これで理解できるように、ISO9004は経営の指南書なのだ。
話を前に進めよう。「sustainable」とは「that can be kept going or maintained」なのだから、前進し続けることができることとなる。その名詞である「sustainabilty」には、経済や経営に関する書籍で一般的に日本語「持続可能性」があてられている。「持続可能性とは、組織の利害関係者を満たし続けることによってもたらたされる結果である。ここでの利害関係者とは、企業を機能させたり価値を創造することに貢献する実際に存在するもの、すなわち、企業、個人、団体であり、それらがなくては企業の目的を達成できないこととなる関係者が利害関係者だ。」と規格は記述している。世の中には、登記はされているが実態のない企業や団体が多くある。また、「金儲けをしてなぜ悪いのか?」とマスコミを通じて発言したような個人、すなわち金だけを動かすだけで実体ない村上ファウンドのようなものもいる。ひろくつかわれる「虚業」に相当する関係者は、利害関係者とは言わない。世界のどこかで何らかの価値を創造する事業を営む「実業」を利害関係者というのであって、自宅のパソコンを使って株取引を行って一日で何億円を稼いだというような個人は、利害関係者とは言えない。しかし、マスコミがこのような人間を公的なメディアを使って報道する。社会的に貢献している利害関係者とは誰かを無視した行為であると言いたい。
次に、前にも述べたように、「この国際規格は、組織がいかにして持続可能性を確立することができるかの指針である。」としている。
この国際規格は、ISO9001:2000の基盤となっている八つの品質マネジメントの原則を活用し、組織に対し長期的で、持続可能な成功を達成せしめる目的をもってこの品質マネジメントの原則を利用するための指針を提供している。さらに、単に規格の構成要素であるのではなく、ある組織全体を持続可能性に向けて動かすことの難題をなし遂げるための指針でもある。八つの品質マネジメントの原則とは、以下である。
顧客志向
リーダーシップの発揮
人々の参画
プロセス・アプローチ
システム・アプローチに基づく経営
継続的改善
事実に基づく意志決定
供給者との互恵関係
この国際規格は、ISO9001およびその他のマネジメント・システムを利用する際に補足的な役割を果たすことができる指針であるが、それらの適用に関するガイダンスでない。すなわち、このISO9004は、ISO9001の認証を取得するための指導書(ガイド)ではない。とはいうものの、ISO9001に基づくシステムの具体的な運用方法を学ぶことができる。特に、認証を取得した企業の経営者は必ず読むことを強く勧める。もし、この中の具体策を採用することによって経営を改善することができるものがあれば、それから始めればよい。
この国際規格の五章から十章では、組織の本質的な特性を明らかにしている。それぞれの章では、個々の本質的な特性の種々の側面に関連する事柄についての指針が提供されている。本質的な特性の相互依存性、組織に存在するリスクと機会、これらの特性を運営する事柄に関連する典型的なプロセス、必要となる資源、可能な測定と分析の手法に対して考慮すべき事柄は何かが記述されている。この文言で分かるように、現行の2000年版ISO9004と比べ根本的に大きく異なり、異質の内容となっている。ただ企業経営そのものに言及していることには変わりわない。しかし、そのメッセージは大きく違う。
余談だが、この記事を書いているときにテレビで国会答弁を見ていたら、規格のいう「features」は「特性」という日本語が一番適切だと思った。ところで、もしこの規格の文言がよく理解できない方ならば悩むことなく次ページ以降に進めてほしい。読み進めれば、いずれ理解できるようになる。
付属書AおよびBは、組織の戦略とその機会を評価する目的の道具が提供されている。この国際規格での指針は、個々の本質的な特性についてのアセスメントの結果に関連付けている。
1 適用範囲
省略
2 参照文献
省略
3 用語および定義
省略
4 持続可能性に向けての経営
4.1 一般
組織の持続可能性は、機会、変化、傾向、リスクに対する外部環境を自律的に監視する能力に依存している。同時に、組織は、外部環境に密着し効果的で、しかも品質マネジメント原則に基づくプロセスと整合させながら監視した結果に対応して学習し、変革し、改革する能力を保持する必要がある。今の日本企業の多くはこれを真剣に考える必要がある。海外の需要に支えられた製造業では、もはや生き残れない。国内市場が縮小している原因にはいろいろあろうが高齢化と人口減、そして労働分配率が低いことが大きい。それでも持続し続けるには金融、流通などサービス業の効率化がもっとも重要と考える。
持続可能性を勝ち得るには、組織はそのプロセスと同様に成果にも焦点を当てる必要があろう。持続可能性を追求するには利益など成果を無視することはできないと認めている。
4.2 持続可能性の本質的な特性
持続可能性を成し遂げるための最も本質的な特性のひとつは、以下を行うことにより、組織が整合されかつ一貫した手段により経営されることである。すなわち、
・ミッションとビジョンをはっきりと表現すること。
・これらを達成するための戦略的な計画を策定すること。そして、
・この戦略的な計画の実現を支援するためのシステムを実施すること。
ミッションとビジョンを維持してゆくには、組織は、絶えることなく変革や改革を使いながらその環境を満たす努力をしなければならない。これには組織自身の状況と同等に、組織を取り巻く環境を継続して監視することが必要となる。
持続可能性を統御する(managing)ために必要であるステップの連鎖は、よく知られている「Plan-Do-Chech-Act」のサイクルである。(著者注:日本では最後のActをよくアクションと言っているが、動詞の「Act」が正しい。)「持続可能性に向かう」とは、自律的な経営風土によって支えられ、P-D-C-Aサイクルの改善部分を強化する能力を高めるように常に試みることを意味する。
「継続的改善」の考えを経営に当てはめれば、このような表現になるのだろう。ISO9001でのマネジメント・レビューで経営者はこの考えを実行しなければならない。これができなければ、ISOマネジメント・システムは何の役にも立たないと言いたい。
4.3 持続可能性に向けての統御(managing)
持続可能性を統御するプロセスは、一般的に「Plan-Do-Chech-Act」サイクルに従うことになる。P-D-C-Aサイクルのステップと持続可能性を統御することの関係はどうなるかを示せば、以下のようになる。
a)Plan
1)意図
持続可能な方法を使って組織と利害関係者のニーズを反映することに配慮して本質的な特性にかかわる戦略的な目的はあるか?
文言が難しく理解しがたいかもしれない。しかし、企業を運営するには、顧客はもちろん種々の利害関係者の便益に配慮しないわけにはいかない。しかも、それらをマネージするための戦略を持たねばならない。出たこと勝負では経営しているとは言えないと言っているにすぎない。
2)プロセスと構成
本質的な特性に対する目的に焦点を当て留意するために適切で十分に明確化されたプロセスがあるか?
非効率な縦割り行政が横行する日本では、 プロセス志向の運営とは何かがよくわからない。部門横断的に業務を運営することがいま一番必要になっている。そのためには、組織構成を変更することも必要ななるかも知れない。大いに議論し、プロセス志向の経営によってV字型回復をした日産を見習うべきだろう。
3)経営資源
適切な経営資源が計画され、本質的な特性を稼働させることができるようになっているか?
日本企業の強みとされていた終身雇用はどうなったのだろうか。人的資源は長期的な視野がなければ確保できない。企業の将来は、社員によって支えられるていることをいま一度考えてほしい。
b)Do
1)実施
本質的な特性にかかわるプロセスが計画したように実施されているか?プロセスは、他の組織のプロセスと特性に一貫してリンクされれいるか?
日産の新車設計は、営業から販売まで部門横断的なグループによってなされていると聞く。ゴーン社長が来るまでは、購買部門は工場のことなど一切関知していなかったとテレビで話されていた。小さな規模の企業でも部門間には壁があることを認識したことがある。
c)Check
1)測定
計画された結果はモニターされ測定されているか?この測定は、本質的な特性に関して有用で効率的な情報を提供しているか?
2)検証
プロセスと構成は計画されたように実施、もしくは変更されているか?経営資源は計画されたように配分され提供されているか?
3)分析
何が達成されたか?本質的な特性は組織の持続可能性に貢献しているか?改善されるには何が求められているか?
4)学習
この分析からどのような学習を組織は得たのか?
d)Act
1)修正
組織が当初満たしていなかった目的達成を確実にするためにどのような修正が必要とされたのか?
2)改善
どのような改善活動がプロセス、製品、構成およびシステム面で求められているのか?
3)改革
どのような改革や変化が表明されている組織のミッション、ビジョンおよび目標を達成するために求められているのか?
持続可能性の改善の図による表現は、下の図1に示されている。
(図を省略)
4.4 持続可能性の評価
組織が持続可能性の面での進捗を明らかにするために、その戦略と運用を評価することがよかろう。そのような評価の結果は、持続可能性、成長、および改善を強化する機会を示してくれるだろう。
評価をチームで行えば、一般的によりバランスのとれ完全な評価の結果が得られる。
備考:付属書AおよびBは、組織の戦略と運用を評価する手法を提供している。